DX(デジタル・トランスフォーメーション)に取り組む飲食店は、年々増加しています。一方で、いくつかの課題にぶつかり、DX推進が「停滞している」「諦めてしまった」という飲食店も少なくありません。
そこで今回は、飲食店のDX推進で解決すべき3つの課題についてご紹介します。各課題を解決するポイントもご紹介するので、飲食店のDX推進を目指している方は、ぜひ参考にしてみてください。
飲食店のDX推進で立ちはだかる3つの課題
飲食店のDX推進で立ちはだかる課題は、
- 認識に関する課題
- 人材に関する課題
- 戦略に関する課題
の3つです。DX推進を成功させるためには、これらの課題に向き合い、解決に向けた取り組みが欠かせません。それでは、各課題についてご説明します。
1. 認識に関する課題
「DXの本質とは何ですか?」と聞かれて、即座に答えられれば心配はありません。しかし、多くの方がこの質問に対して明確な答えを持っていないのが実情です。DXは単なるITツール活用でも、売上アップのための取り組みでもありません。
では、DXの本質は何かというと、「デジタル活用による商品、サービス、ビジネスモデル、企業の文化や風土を変革し、高い競合優位性を確立すること」です。デジタルとはITツールや、飲食店が保有するデータも含みます。
DXの本質を理解していないと間違った取り組みにより店舗の強みを失ったり、無駄な投資をしてしまったりと、DX推進で大きなリスクを背負うことになります。
2. 人材に関する課題
DXではさまざまなITツールを活用することになるため、ITツールを扱える人材が欠かせません。個人事業や小規模企業として飲食店を経営している場合、IT人材を抱えているケースは少ないため、DXの取り組みがなかなか進みません。
もう1つの問題は、DXは「ITツールを導入すれば自然と推進するもの」と考えてしまうことです。DXにおいてITツールとはあくまで手段であり、IT人材の力がなければ飲食店のDXも実現できません。
しかし、IT人材の雇用にはコストも時間もかかります。人材に関する課題は、飲食店のDXにおいて最も大きな課題だと言えるでしょう。
3. 戦略に関する課題
飲食店のDXは「ITツールありき」ではなく、「戦略ありき」で進めるのがポイントです。DXを実現するための戦略が根底にあり、それを実現するために適宜ITツールを導入していくのが理想となります。
しかし、多くの飲食店では戦略よりも先にITツールを導入しているため、「実態に即した戦略立案ができない」「そもそも戦略を立てていない」などの問題が生じます。DXは中長期的な取り組みになるため、最低でも3年先まで見据えた戦略・ビジョンを持つ必要があるのです。
肌感覚の経営を行なってきた経営者からすると、中長期的な戦略・ビジョンを持つのは難しいかもしれません。これを解決するには、次のご紹介する課題解決のポイントを押させることが大切です。
飲食店のDX課題を解決するポイント
飲食店のDX課題を解決するポイントは、
- DXについて正しく理解する
- DXは人が進めるものと理解する
- DXの戦略を考えるフレームワークを理解する
の3つです。それぞれの課題を解決するために、ポイントを押さえたDX推進を目指しましょう。それでは、各ポイントについてご説明します。
DXについて正しく理解する
飲食店のDX推進では本質を理解し、正しい目的設定が欠かせません。DX推進の方針・基盤をしっかりと作らなければ、DXの効果検証が難しくなり、継続的な改善サイクルを生み出せなくなります。
以下の記事では飲食店にとってDXはなぜ必要か、飲食店DXの正しい目的とは何かについて解説しているので、本記事と併せて参考にしてみてください。
DXはなぜ必要なのか?飲食店が知るべきデジタル化の目的やメリット
DXは人が進めるものと理解する
飲食店のDX推進にはITツールが欠かせません。DXに取り組む中で、タブレットレジやアンケートツールなど、さまざまなITツールを利用することになるでしょう。しかし、それらITツールはDX推進における手段です。
「ITツールを導入すれば自然と推進するもの」と考えてしまうと、ITツール導入が目的になり、DXの本質を見失ってしまいます。
DXはあくまで人が進めるものです。つまり戦略・ビジョンの立案や、ITツールの有効活用などをIT人材が推進しなければいけないのです。
では、IT人材をどう確保するか?個人事業の場合は、経営者自身がIT人材になるのが確実かつ迅速な対策です。新しくIT人材を雇用するよりも、自分やスタッフをIT人材として育てることを優先的に検討しましょう。
DXの戦略を考えるフレームワークを理解する
DXの戦略を考えるフレームワーク(枠組み)はたくさんあり、主に次のようなフレームワークを使って戦略立案を行います。
- DXフレームワーク
- SWOT分析/クロスSWOT
- アンゾフの成長マトリクス
- ペルソナ
- カスタマージャーニーマップ
- その他
これらのフレームワークは、やり方さえ分かれば難しいものではありません。さまざまな角度から情報を整理し、中長期的な戦略・ビジョンを考えるのに役立ちます。
飲食店のDXを進める基本的なステップ

それでは最後に、飲食店のDXを進めるための基本的なステップをご紹介します。多くの場合、以下のステップでDXを進めていきます。
1. 業務の棚卸しをする
2. デジタル化できる部分を探す
3. 効率化の輪を広げていく
4. 全体的なデータ活用を促進する
5. 新しい価値を見出す
各ステップの役割ややるべきことを知り、飲食店のDX実現をイメージしてみましょう。
1. 業務の棚卸しをする
まずは業務の棚卸しを行い、店舗業務の全てを洗い出します。また、各業務にはつながりがあり、業務と業務のプロセスを把握するのが主な目的です。業務を洗い出したらそれぞれが抱えている課題について考えてみます。
多くの場合、飲食店業務には効率性に課題を抱えています。それは店頭で行われる業務だけでなく、スタッフ教育や事務作業などあらゆる業務で課題を抱えている可能性が高いので、幅広く業務の棚卸しを行いましょう。
2. デジタル化できる部分を探す
次に、洗い出した業務とプロセス、さらに業務課題に対してデジタル化できる部分を探します。このステップをスムーズに進めるためには、DXに活用できるITツールにはどのようなものがあり、どのような課題を解決できるのかを知る必要があります。
日頃からDXの情報収集を行い、事例(業種問わず)も参考にしながらDXの知識を蓄積して、デジタル化できる部分をすぐに把握できるようにしましょう。また、デジタル化できる部分の中でも、とくに優先度の高い業務課題を判断することも大切です。
3. 効率化の輪を広げていく
飲食店のDXは基本的にスモールスタート(小さく始める)で推進します。小さな部分でDXの成功体験を重ねて、それを少しずつ全体業務に広げていくのです。
例えばRPA(自動化ソフトウェア)を使って売上集計できるようになり、効率化効果を実感できたらそれを給与計算やシフト管理などに応用していきます。そうして効率化の輪を広げていくことで、全体としてのDX推進を実現できるようになります。
4. 全体的なデータ活用を促進する
DXを推進すると、飲食店にたくさんのデータが積み上がっていきます。それらは全て貴重なデータであり、売上アップやお客さまのリピーター化などを実現するための情報の宝庫です。
データが積み上がってきたところでもう一歩踏み込み、分析ツールを導入してデータ分析を進めてみましょう。データドリブンな(データを起点にした)経営を実現できれば、肌感覚に頼らないデジタル経営を実現することができます。
5. 新しい価値を見出す
これまでのステップの総合結果として、飲食店の商品やビジネスそのものに新しい価値を見出せるようになります。例えばフードロス推進による社会的信用度のアップ、需要予測による仕入れの最適化(原価率低下)、全国的な商品展開などがあります。
デジタル活用で商品やビジネスモデルに新しい価値を生み出すのは、DXの本質的な目的です。最終的には付加価値の創出を目指してDXを推進していくことが、飲食店にも求められています。
課題と解決ポイントを把握して正しい飲食店DXの推進を
飲食店のDXは千差万別であり、コレと決まった取り組みはありません。しかし今回ご紹介したように、DXでぶつかりやすい課題とその対策方法はすべての飲食店で共通しています。これからDXに取り組む方、既に取り組んでいるが思うように成果が出ていない方は、今回の内容を参考に、今後のDX推進について熟考してみてください。