あなたは飲食店経営者として、「優秀なスタッフが定着しない」「店長がいないと店が回らない」「スタッフの自主性が育たない」といった悩みを抱えていませんか?これらの問題を解決するには、「スタッフが活きる組織づくり」が不可欠です。私たちの店舗で実践している「自立型組織」の構築方法を、具体的な3つの柱と共にご紹介します。
飲食店経営において、いくら素晴らしい店舗やメニューがあっても、それを提供するスタッフが活き活きと働いていなければ、本当の意味での価値は生み出せません。多くの経営者が「人手不足」や「人材育成」に悩んでいますが、その根本的な解決策は、単に指示を待つのではなく自ら考え行動できるスタッフを育てる「自立型組織」の構築にあります。ここでは、私たちの店舗で実際に成果を上げている三つの柱について詳しくお話しします。
飲食店経営の最重要資産は「人財」である
飲食店経営において最も重要な資産は、何でしょうか。店舗?メニュー?それとも立地でしょうか。従業員は企業・組織にとっての貴重な財産です。なので私は「人財」だと考えています。いくら素晴らしい店舗やメニューがあっても、それを提供するスタッフが活き活きと働いていなければ、本当の意味での価値は生み出せません。
私が目指してきたのは、「自立型組織」の構築です。これは、単に指示を待つのではなく、自ら考え、行動できるスタッフを育てる組織のことです。このような組織を実現するために、私たちが実践してきた三つの柱についてお話しします。
第一の柱:役職に紐づく明確な「役割定義」
効果的なミーティング運営の第一の柱となるのが、明確な「役割定義」です。これは個々のスタッフの能力に合わせた役割分担ではなく、組織として必要な機能を役職ごとに明確に定義するアプローチです。
私たちの店舗では「役割定義表」を活用したミーティング運営を実践しています。この表には例えば、店長であれば「週次売上目標の達成(数値で明記)」「原価率と労働分配率の目標値の達成」「スタッフの労働時間管理と最適配置」といった役割が、具体的な期限やあるべき状態とともに明確に記載されています。
ミーティングではこの役割定義に基づいた報告と課題共有が行われます。私は3店舗を経営していますが、例えば、ある店舗の店長は週次ミーティングで「目標160万円に対して166万円を達成しました。労働時間は288時間で予算内に収まっています」と売上と労働時間を数値で報告します。また別の店補の店長は「メール会員を24人増やして2,893人になりました。4月の目標3,000人に向けて進捗しています」と自分の役割に紐づく成果を共有します。
この役割定義をミーティングの基盤とする重要なポイントは、それが個人ではなく役職に紐づいていること。つまり「あなただから」ではなく「店長という立場だから」「料理長という立場だから」この報告責任と役割があるということです。
私達のミーティングでは「見える化」を徹底しており、各役職者は自分の担当領域のデータを準備して参加します。ある担当者は売上構成や人気メニューの販売状況、別の店舗担当者はリピーター施策の進捗、また別の店舗担当者は予約状況と季節イベントの対応状況など、それぞれの役割に応じた報告を行います。
これにより、ミーティングでの責任の所在が明確になり、各スタッフは自分の役割を主体的に捉えて準備・報告するようになります。「聞き酒三種が目標15食に対して32食出た」「肉玉そばが平均12食出ている」といった具体的な数値報告が自然と行われるようになるのです。
また、個人の能力や性格による差異をなくし、組織として必要な機能を明確にすることで、誰が担当しても一定の成果が出せる仕組みが構築できます。例えば、急なシフト変更や人事異動があっても、「店長の役割」として何をすべきかが明確なため、業務の引継ぎがスムーズになります。
第二の柱:数値に基づく客観的な「評価制度」
二つ目の柱は、客観的な「評価制度」です。飲食業界では「頑張っているから」「人柄がいいから」といった主観的な評価が主流ですが、これが現場の不公平感や給与への不満につながっていることをご存知でしょうか。
私の知人の飲食店オーナーは「優秀なスタッフが突然辞めてしまう」という悩みを抱えていました。理由を聞くと「頑張っても給料が上がらない」「評価がわかりにくい」という不満があったそうです。これは業界全体の課題とも言えます。
そこで私たちは業界の常識を覆す「基準点付き役割定義表」を作成しました。まだ作成したばかりですが、これは飲食店では極めて珍しい取り組みだと思います。
この表では、各役割に「重み」と「基準点」を設定します。例えば、私たちのミーティングでも出てきた「メール会員獲得」を例にすると、店舗目標では「月に100人の新規メール会員獲得」という明確な数値目標があり、これを店長評価の15%の重みで設定しています。目標の3,000人を達成すれば100点満点、2,900人なら80点というように具体的数値で評価が決まります。
別の店補の店長評価では「聞き酒三種の販売数」が評価項目に含まれており、目標15食に対して32食を達成した今回は満点の100点で評価されました。さらに驚くべきことに、この評価は給与に直結しています。
ある店舗のオーナーから「うちでそんなことをしたら、低評価のスタッフのモチベーションが下がる」と言われたことがありますが、実際は逆でした。明確な評価基準があることで「何をすればよいか」が分かり、むしろやる気が向上したのです。
ある店舗の担当者は「アフターヌーンティーの予約が満席になった」ことで高評価を得ました。これは単なる上司の印象ではなく、「予約率90%以上で90点」という明確な基準に基づいています。この透明性が信頼関係の構築に大きく貢献しています。
私たちのミーティングでは「労働時間288時間で売上166万円」といった数値が当たり前に報告されますが、これも評価制度と密接に関連しています。労働生産性が評価指標に入っているからこそ、各マネージャーがこの数字を重視し、適切な人員配置を心がけるのです。
私たちは数値による「見える化」が成長の鍵だと考えています。
感情や好き嫌いに左右されない公平な評価制度は、飲食店経営の常識を覆す革新的な取り組みですが、そこには「人財」を大切にするという私たちの経営理念が反映されているのです。
「約束の文化」を醸成する会議運営
このような取り組みの根底にあるのは「約束の文化」の醸成です。私たちは会議を単なる報告の場ではなく、「約束」の場と位置づけています。会議では「未来の約束から始める」ことを原則としています。過去の話は20%程度に抑え、未来の約束を80%の比重で話し合います。これは、過去の話が言い訳の温床になりがちだからです。
私たちのミーティングでは、この「約束の文化」が実際にどう機能しているかを見ることができます。例えば、ある店舗担当者が「先週の売上は目標2,550,000円に対して達成しました」と報告した後、すぐに「来週の目標は2,340,000円です。この土日は夜の予約が増えているので達成できると思います」と未来の約束に移行しています。
また別の担当者のケースでは、「アフターヌーンティーのイラストは印刷してもらって完了しています」という過去の報告はごく簡潔に済ませ、すぐに「掃除のスケジュールチェック表は現在作成中で、7日までに完成します」「飲み比べの写真撮影は7日の10時に行います」と、具体的な日時を明示した未来の約束に重点を置いています。
また各店長から「クレンリネスの仕組みをしっかり作って、店の清潔感を向上させる」という方針を示し、各店舗からそれに対する具体的な行動計画と期限の約束を引き出しています。
このように、私たちのミーティングでは「何ができなかったか」という過去の振り返りよりも、「いつまでに何をするか」という未来の約束に80%の時間を割いています。これにより、言い訳の余地を減らし、行動と成果に焦点を当てた生産的な会議文化が醸成されているのです。
また、会議の進行も工夫しています。まず部下が報告し、それに対して上司が承認・修正・質問するという流れを徹底しています。上司から部下への確認が増えると、経過報告に流れやすく、約束の度合いが弱まるためです。特に大切にしているのが「免責をなくす」ことです。会議の最後には「本当に行ける?」と繰り返し確認したり、約束を守るために必要な権限はないかを問うたりします。これにより、「やろうと思ったけどできなかった」といった言い訳の余地をなくすのです。
自立型組織づくりがもたらす3つの成果
これらの取り組みの成果として、スタッフの自主性と責任感が大きく向上しました。「言われたことをこなす」スタッフから、「自ら考え行動する」スタッフへと変化していったのです。また、評価の透明性が高まったことで、不満や不公平感が減少。モチベーションの向上にもつながっています。何より、各店舗の運営が安定し、私自身が現場に常駐しなくても、店舗が回るようになったことが大きな成果です。
このように、役割定義、評価制度、権限委譲という三つの柱を整備することで、スタッフが活き活きと働ける組織づくりが可能になります。皆さんの店舗でも、ぜひこれらの考え方を取り入れてみてください。短時間で実現できませんが、継続的に取り組むことで、必ず成果は表れてきます。
まとめ:スタッフが活きる自立型組織の構築法
ここまで飲食店経営における「スタッフが活きる組織づくり」について実践例をお伝えしてきました。最後に要点を3つにまとめました。
- 明確な「役割定義」では、個人ではなく役職に紐づいた役割を定義することで、責任の所在を明確にし、スタッフの主体性を引き出す。
- 客観的な「評価制度」では、数値化された基準点と重みづけにより公平な評価を行い、それを給与や賞与に連動させることでモチベーションを向上させる。
- 「権限委譲」では、店長が必要な権限を要求できる場を設け、権限と責任のバランスを取ることで、オーナーシップを持った自立型人財を育成する。